日本の エレキギター の歴史と業界 第7話 | THEONE | ハイエンド エフェクターなどの解説
エレキギター の歴史と業界 第7話
日本の中での エレキギター 歴史の第6話では、70年代末から80年代初頭に国内メーカーによって繰り広げられたスーパーコピーモデル戦争の時代を紹介しましたが、フェンダージャパン、オービルby Gibsonなどが誕生する80年代の エレキギター 業界を振り返っていきます。
80年代に確固たる地位を確立したブランドとしては、まずIbanezが挙げられると言えます。第5話でもふれたように、Ibanezは70年代から国内ではなく海外をメインとする販売戦略を地道に続け、アメリカでブレイク目前の若手ギタリストを中心にブランド認知度を徐々に高まり、後にトップアーティストのシグネチャーモデルを手掛けていき、80年代に入ってスティーブヴァイモデルの発売以降、現在のようなブランドステータスを築いたと言えるでしょう。
70年代中期のロックシーンは、既にディープパープル、ブラックサバスなどハードロックが人気を集めており、それに続くバンドが数々と現れます。70年代後期には、この時期に起こったパンクロックムーブメントの反骨精神的思想、スピード感とディープパープルなどに代表されるハードロックサウンドを融合し新たな方向性に進化した『NWOBHM』(ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル)なるムーブメントが起こり、後に『Heavy Metal』へと進化して 多くのギターヒーローが出現しました。しかしこれらは、イギリスを中心としたヨーロッパでのロックシーンであり、アメリカではどうだったのか?
1970年代初期のアメリカは、まだ「ハードロック」の時代ではなく、ビートルズがアメリカでの成功をしたように、レッドツェッペリン、ディープパープルなどのブリティッシュハードロックバンドがアメリカでも成功を収め出し、アメリカ流にアレンジされたハードロックサウンドが生まれていきます。
モントローズ、エアロスミス、キッスなどが誕生して『アメリカンハードロック』が確立していく中で、ヴァンヘイレンの出現がアメリカでのハードロックサウンドを決定づけたと言って過言ではないでしょう。その後、80年代に入りイギリスの『NWOBHM』と『アメリカンハードロック』を融合した形で西海岸を中心に『L,Aメタル』ムーブメントが起こりモトリークルーをはじめラット、クワイエットライオットなど数多くのバンドが出現します。
イギリス、アメリカ共にハードロックの特徴はギタリストのスキルが高いプレイを全面に出したサウンドで、アマチュアギタリストを虜にしていきます。エディーヴァンヘイレン登場以前のギタリスト達は、殆ど既存のGibson, Fenderの楽器を使用していましたが(主にハムバッキングピックアップ搭載のGibson系)エディーはトレモロユニットを搭載されているストラトにGibsonのハムバッキングピックアップを搭載したギターで自身のサウンドを構築していました。その後、同様なモディファイを施したギターを手にするハードロック系のギタリストが増え始め、フロイドローズトレモロユニットの登場などと、相まって後に『スーパーストラト』と呼ばれるストラトモデルにハムバッキングピックアップ、ロック式トレモロ搭載する新たな エレキギター のモデルとしてカテゴライズされるようになります。
この流れでシャーベル、ジャクソン、クレイマーそしてIbanezがこの『スーパーストラト』タイプのギターを手掛けて人気を博していました。
70年代にレオフェンダーが去ったFender社は70年代後半には良質な木材入手が困難になり、設備の老朽化などで製品のクオリティーは低下し、ユーザーの評価も下がっていました。日本メーカーによる安価で質の高いコピーモデル氾濫、スーパーストラトへの市場トレンド変化などで更に販売不振に陥り、80年代に入ってストラトまでもが一時、廃番にまでに追い込まれます。
Gibson, Fender共に完成度の高いコピーモデルが自社製品の販売に影響を及ぼしており、日本のコピーモデル生産を手掛けるブランドに対して訴訟を行いますが、完全にコピーモデルを市場から排除することは出来ませんでした。
安価でクオリティーの高い多くのコピーブランド駆逐を目的とし、自社で安価なFenderブランドを展開する体制を模索することになります。第6話のように既にコピー戦争で高い品質を誇っていた日本の製造技術にFenderブランドのお墨付きを与えて生産を行うことで、安価な価格帯でのFenderを展開する計画が持ち上がります。当然、Fenderのロゴが入ったストラト、テレキャスターなどがリーズナブルな価格で日本市場に展開すればコピーモデルを排除することにも繋がります。
このような背景で初めてアメリカ以外で生産されるFender楽器『フェンダージャパン』が誕生することになるのです。
Fenderの輸入代理店である山野楽器を通じて神田商会のグレコを製造していた富士弦楽器に打診しましが、フジゲンはGrecoブランドでのスーパーリアルシリーズ製造の継続を望み、いったんは断ることになり、同じ松本にあるマツモクに話を持ち掛けます。マツモクは荒井貿易との関係が深く、当時Gibson代理店『日本ギブソン』との兼ね合いもあり断ります。
再度、神田商会はフジゲンでの製造を強く依頼して、富士弦楽器によって『フェンダージャパン』の製造することになり、山野楽器、神田商会、富士弦楽器製造の3社共同で『フェンダージャパン』が発足しました。
巷では、「初期のフェンダージャパン製品はグレコのスーパーリアルシリーズをFenderロゴに付け替えただけで同じ」と噂されていますが、実際には米国フェンダー社から各年代モデルの仕様書が細かくあり、スーパーリアルシリーズの各モデルとは違いが有ります。前後する2本を比較すると明らかな違いが確認出来ます。
このように富士弦楽器によって『フェンダージャパン』発足によって弱体したFenderのコロナ工場の技術支援、メキシコ工場の立ち上げなどで深い関係を築いていましたが、バブル崩壊後からの経営が圧迫していた影響などもあり、株式を手放すことになり1997年にフジゲンでの『フェンダージャパン』製造に終止符が打たれます。
その後は神田商会がFender社とライセンス契約を行い『フェンダージャパン』ブランドは継続され神田商会傘下のダイナ楽器で製造が行われ2015年まで続きます。以降はFender社が自ら日本法人を設立したことで『フェンダージャパン』ブランドは消滅しますが、Fender社の製品として現在でもMade in Japanの製品は生産されています。
スタート当初は富士弦楽器のみで全工程を製造していたようですが、生産量の増加で一部の工程などは他の工場でOEM生産、メイン工場変更などがありました。
同じようにコピーモデルの問題で販売不振に陥っていたGibsonですが、1984年に荒井貿易による『日本ギブソン』エージェント契約が終わり、その後は山野楽器が国内の輸入販売代理店になり、Gibsonもノーリンから親会社が同時期にかわります。既に『フェンダージャパン』を日本で展開し成功していた手法で国内での展開を検討しますが、Gibsonには既に70年代からセカンドブランドとして展開していた『Epiphone』がありました。
セカンドブランドとしての展開当初は、日本での生産(マツモク)を行っておりましたが80年代に入り、より安価な韓国での生産にシフトしておりました。Gibsonのブランドバリューで本家Gibson製品と安価なEpiphone製品の中間的な価格帯を目指し、1988年から『Orville by Gibson』を富士弦楽器で製造して展開していきました。
80年代初頭からヴィンテージギターのブームが起こり始めたタイミングでもあり、Gibson、Fender共に日本で展開した『フェンダージャパン』『Orville by Gibson』は黄金期のレスポール、ストラトなどモデルをラインナップして大きなセールスを生んでいきました。
日本の エレキギター の歴史と業界 第8話へ続く
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